寒暖差に体がついていかない、季節の変わり目に体調を崩しやすい、理由もなく気分が落ち込む……。そんなときに注目したいのが、「薬膳」の知恵です。薬膳とは、中国伝統医学の理論をベースに、季節や体調、体質に合わせて食材を選び、心身のバランスを整える食事法です。
私たちの体は、自然のリズムと密接に関係しています。だからこそ、四季それぞれの特徴を理解し、その時期に合った食養生を心がけることで、不調を防ぎ、元気に日々を過ごすことができます。
今回は、春夏秋冬それぞれの季節に起こりやすい不調と、薬膳での対処法を丁寧にご紹介します。暮らしの中に手軽に取り入れられるレシピや食材選びのヒントも満載ですので、ぜひ参考にしてみてください。
春は「肝」を整えて心と体の巡りをスムーズに
春は万物が芽吹き、活動の季節です。一方で、中医学では「肝(かん)」の働きが活発になる時期とされます。「肝」は気や血の流れを司る臓器で、精神の安定や女性の月経にも関係が深いとされています。
しかし、ストレスや感情の乱れが「肝」の働きを妨げると、イライラしたり、肩こり、頭痛、不眠、月経不順などの不調が現れやすくなります。
春のおすすめ薬膳食材:
・セロリ:気の巡りを良くし、頭痛やイライラに効果的
・春菊:苦味が「肝」に働きかけ、デトックス効果あり
・ミント:気の巡りを促進し、気分をリフレッシュ
・しじみ:肝を養い、解毒をサポート
おすすめレシピ:春菊としじみの薬膳スープ
春菊、しじみ、生姜を鍋に入れ、塩少々で味を調えたシンプルなスープ。肝の働きを高め、春の疲れをリセットしてくれます。
夏は「心」と「水分代謝」を整えて暑さから体を守る
夏は暑さにより体力を消耗しやすく、「心(しん)」の働きが活発になる季節です。「心」は精神活動や血液循環に関与するとされ、不調が現れると動悸や不眠、集中力低下、イライラなどの症状が出やすくなります。
また、発汗が増えるため「気」や「津液(水分)」が失われ、脱水や熱中症のリスクも高まります。
夏のおすすめ薬膳食材:
・はとむぎ:体内の余分な湿気を排出し、むくみ解消
・緑豆:体の熱を冷まし、利尿作用もあり
・スイカ:清熱・生津作用があり、熱を冷まし潤いを与える
・とうもろこしのひげ茶:利尿作用で水分バランスを整える
おすすめレシピ:緑豆とはとむぎの冷製お粥
緑豆とはとむぎを柔らかく煮て冷やすだけの簡単レシピ。暑さで疲れた胃腸を優しく癒してくれます。食欲が落ちる夏にもおすすめです。
秋は「肺」を潤して乾燥対策と免疫力アップを
秋は空気が乾燥し、肌や喉、呼吸器の不調が増えやすい季節です。中医学では「肺」が乾燥に弱いとされ、この時期は「肺」を潤す食材を意識して取り入れることが大切です。
肺が乾くと、咳や喉の痛み、肌の乾燥、便秘といった症状が起こりやすくなります。また、秋は冬に備える“蓄えの時期”でもあるため、栄養をしっかり取り、免疫力を高めることも重要です。
秋のおすすめ薬膳食材:
・梨:肺を潤し、咳を鎮める
・白きくらげ:潤いを補い、肌や肺を保護
・れんこん:喉の炎症を抑え、血を清める
・百合根:乾燥による不眠や咳に
おすすめレシピ:梨と白きくらげのコンポート
白きくらげを戻し、梨と一緒に煮込むだけ。氷砂糖で甘みを加えると、秋のデザートにぴったりです。肺を潤し、風邪予防にもなります。
冬は「腎」を補い、体の芯から温める
冬は自然界の“陰”が極まり、寒さによって体の代謝や機能が低下しやすい時期です。中医学では「腎」の働きが重要とされ、生命力やホルモンバランスを司る腎を養うことが健康維持の鍵になります。
腎が弱ると、冷え性、腰痛、疲労感、頻尿、不妊などの症状が出やすくなるため、温める食材を中心にエネルギーを蓄える食事を意識しましょう。
冬のおすすめ薬膳食材:
・黒豆:腎を補い、アンチエイジングにも
・くるみ:体を温め、脳の働きもサポート
・羊肉:温性が強く、体を芯から温める
・山芋:消化を助け、気血を補う
おすすめレシピ:黒豆とくるみの養生ごはん
黒豆を柔らかく煮て、くるみと一緒に炊き込みごはんに。ほんのり甘みとコクがあり、寒い冬にぴったりの滋養食です。
薬膳を日常に取り入れるための実践ポイント
薬膳は一朝一夕に効果が現れるものではなく、日々の積み重ねで心身の状態を整える「食のセルフケア」です。続けることが大切だからこそ、無理なく楽しく取り組める工夫が必要です。
薬膳を習慣化するためのコツ:
・毎日の食事に薬膳的な食材を1〜2品加えるだけでもOK
・スーパーで買える身近な食材で薬膳を実践
・季節の変わり目に合わせて献立を調整
・体調の「小さな変化」に気づく時間をもつ
・薬膳茶やサプリなど、手軽なアイテムも活用する
たとえば、朝は「黒豆茶」や「なつめ茶」を飲む、夜は「白きくらげスープ」を1品追加するなど、ちょっとした工夫でも十分です。
まとめ:薬膳で整える春夏秋冬の体と心は、自然と調和した健やかな生き方
私たちの体と心は、自然のリズムとともに日々変化しています。薬膳は、その変化に寄り添い、食を通じて無理なく整えるための知恵です。
春は肝、夏は心、秋は肺、冬は腎。それぞれの季節に合った食材を選び、体調や気分のゆらぎにやさしく寄り添ってみましょう。今日からできる身近な食材を使った薬膳の習慣が、やがて季節の変化にも動じない、しなやかで健やかな自分を育ててくれるはずです。
忙しい毎日でも、食卓に一つ薬膳の要素を加えるだけで、あなたの暮らしはもっとやさしく、もっと美しく変わっていきます。自然と調和した薬膳ライフを、ぜひ一緒に始めてみませんか?

